大阪高等裁判所 平成5年(行コ)59号 判決
事実及び理由
第三 争点についての判断
次のとおり付加、訂正するほかは、原判決11頁末行冒頭から同21頁二行目末尾までのとおりであるから、これを引用する。
一 原判決14頁九行目冒頭から同15頁七行目末尾までを次のとおり改める。
「そうすると、被控訴人が本条例の執行としてなした本件公金支出が、その職務上負担する財務会計上の義務に違反した違法なものとなるかどうかは、本件公金支出の前提ないし先行行為となっている議会の本条例の改正行為自体(換言すれば本条例改正の内容自体)に重大明白な憲法違反があるのに、これを看過して、その命じる財務会計上の措置をとったことが、予算執行の適正確保の見地からも看過できないほどに不当なものとなるような特段の事情が存する場合であるか否かによるものというべきである。
そこで、本件公金支出行為につき、右特段の事情があるか否か、換言すれば、本条例の改正を重大明白な憲法違反とすべき理由の有無を検討するに、既に本条例酷似の条例につき、これを違憲でないとした最高裁判所平成元年九月一九日判決(刑集四三巻八号七八五頁)に照らせば、本条例も直ちにこれを違憲とする理由は見出し難いところ、以下に説示のとおり、控訴人の主張に基づき検討してみても、これを明白に違憲とすべきものとは認められない。」
二 原判決16頁三行目の「みられるから、」の次に「権利の享有主体であると同時に、他方ではその福祉のために、少年法、児童福祉法等の諸法規や本条例等によって保護の対象に置くことも憲法の精神に反するものではなく、そのように保護の対象とされる限りにおいては当然に右の権利主体性は後退するのであり、」を、同七行目括弧内の末尾に「従って、一般に優越する地位を持つ表現の自由を制約する法令の合憲性審査基準とされる、LRAの原則や事前抑制禁止の原則はそのままには適用されない」を、それぞれ加える。
三 原判決17頁五行目冒頭から同18頁六行目末尾までを「そこで、その点を検討するに、本条例の規制対象となるような有害図書類が原因となって京都府内の青少年の性犯罪や非行が特に増加したとの事実については、何らこれを認めるに足りる証拠はなく、かえって「性情報を規制すればするほど、若者の性犯罪は増加する」旨の資料に基づく学者の主張(甲一六の二)が存するところであり、また、京都府が平成三年七月一五日と同月一七日に実施した立入調査の結果(甲三)によれば、京都市内における有害図書類(但し、セックスコミック本)を陳列していない書店の割合は、前回調査の平成二年一二月時の約四五%から約七五%に増加しており、青少年育成条例のもとにおいても、京都市内における書店の自主規制は一応の進展を見せていたことが認められることを考え合わせれば、果たして本条例改正当時に指定制度の導入や罰則の付加を伴う本条例改正の必要性があったかについては、厳格な基準による限り、直ちにこれを肯定することには疑問があるというべきである。しかし、前叙のとおり、青少年の表現行為に対する制約の憲法適合性については厳格な基準は適用されないと解するのが相当であるから、立法事実の存在についても、成人の場合とは異なり、緩和されたもので足りるというべきである。そして、有害図書類が、一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に好ましくない影響を及ぼし、性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につながるものであり、青少年の健全な育成にとって有害であることは既に社会共通の認識になっている(前掲最判平元・九・一九参照)ことも疑いない事実である(本条例の規制対象となるような有害図書類が青少年の健全な育成にとって有害無益であり、社会的に無価値であること自体については、敢えて異を唱える者はあるまい)。本条例改正も、京都府下の婦人、教育関係の諸団体から、平成三年七月から九月にかけて、京都府議会に対し、書店の自主規制ではなお不十分である(前記の京都府の調査結果によっても、京都市内の書店の約四分の一においてはなお有害図書類が販売されていたのである)として、本条例の改正による有害図書類の販売についての規制の一層の強化を求める三件の請願がなされ、いずれも同議会において採択されたため(乙三)、そのような社会共通の認識から生じた世論の高まりを受けた形で同年一二月同議会定例会において可決されるに至った(甲一七)ものであることが認められるのである。そして、右請願によって代表される社会共通の認識の趣旨、目的とするところが正当なものであることは何人も否定し得ないところであり、かつ、それが青少年の権利を不当に制限するものであることが明白なものということはできない。従って、成人の場合よりは緩和されたものとしての本条例改正を正当化すべき立法事実としては、右三件の請願によって代表され顕在化した前記社会共通の認識の存在をもって足りるものと解するのが相当であり、本条例一三条の二第一、二項及び二八条一項但書に規定する有害図書類の指定制度による青少年への販売規制は、青少年に対する関係において、なお憲法二一条一項に明白に違反するものではなく、また、成人に対する関係において有害図書類の流通を制約し、作者の表現の自由を制約することがあったとしても、青少年の健全な育成を阻害する有害な環境を浄化するための規制に伴う必要止むを得ない制約として、なお憲法二一条一項に明白には違反しないものと解するのが相当である。」と改め、同18頁七行目冒頭から同九行目末尾までを削除する。
四 原判決20頁一〇行目冒頭の「前示のとおり、」を、同行の「青少年や」から次行の「これによって、」までを、それぞれ削除し、同21頁二行目の「違反する」の前に「明白に」を加える。
第四 結論
以上のとおり、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべく、原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 潮久郎 裁判官 山崎杲 上田昭典)